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最高裁判所第一小法廷 平成4年(オ)1119号 判決 1995年11月30日

上告人

遠矢大

遠矢徹

遠矢明大

遠矢真人

右四名訴訟代理人弁護士

濱田源治郎

柴田憲一

小林覚

被上告人

株式会社忠実屋訴訟承継人

株式会社ダイエー

右代表者代表取締役

中内

右訴訟代理人弁護士

木川統一郎

右補助参加人

八島貞夫

右訴訟代理人弁護士

大森八十香

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人濱田源治郎、同柴田憲一、同小林覚の上告理由について

一  本件訴訟は、上告人遠矢徹が、株式会社忠実屋(承継前の被上告人、以下「忠実屋」という。)の経営するスーパーマーケット忠実屋小田急相模原店(以下「本件店舗」という。)の屋上においてペットショップを経営する被上告補助参加人から、手乗りインコ二羽を購入して飼育していたところ、右インコがオウム病クラミジアを保有していたため、上告人ら家族がオウム病性肺炎にかかり、上告人遠矢大の妻であり、その余の上告人らの母である遠矢明美が死亡したとして、上告人らが忠実屋の承継人である被上告人に対し、商法二三条、民法四一五条に基づき損害賠償を請求するものであるが、原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  忠実屋は、チェーンストア形式による総合小売業などを営む株式会社であり、神奈川県座間市において、地上四階建て(屋上あり)の本件店舗でスーパーマーケットを営んでいた。忠実屋は、本件店舗内に直営の売場を設けるほか、いわゆるテナントに出店させていた。被上告補助参加人は、右テナントとして、昭和五三年三月一日、忠実屋との間で出店及び店舗使用に関する契約を締結し、当初は「山宮ペットコーナー」、後には「ペットショップ八島」ないし「八島ペット」の店名又は屋号で、本件店舗屋上の一部においてペットショップを営んでいた。

2  本件店舗の外部には、忠実屋の商標を表示した大きな看板が掲げられており、テナント名は表示されていなかった。

3  右1の出店及び店舗使用に関する契約においては、(1) 被上告補助参加人は、店舗の統一的営業方針及び出店者間の合理的均衡を維持するため、忠実屋の承諾した取扱品目(ペット)について営業するものとし、忠実屋の承諾なしにこれを変更することができないこと、(2) 賃料は、一定額の固定賃料と売上額を基準とした変動賃料とから成り、その支払方法は、忠実屋が被上告補助参加人の売上金を毎日管理し、これから賃料、共益費その他の諸経費を控除して被上告補助参加人に返還するというものであること、(3) 被上告補助参加人は、営業時間、休業日、商品物品の搬入搬出、清掃、従業員の就業等、日常の営業行為又はその付随行為につき、忠実屋が定める店内規則を遵守し、店内規則に定めのない事項については忠実屋の指示に従うこと、などが定められていた。

4  ところで、昭和五八年二月当時、本件店舗には被上告補助参加人を含めて約一二のテナントが入っていたが、店内数箇所に設けられた顧客案内用の館内表示板には、忠実屋が販売する商品の種類が黒文字で、その右横にテナント名が青文字で表示され、RF(屋上)の部分には、青文字で「プレイランド」及び「ペットショップ八島」と表示されていた。

5  また、被上告補助参加人を含む各テナントの賃借部分の前には、天井から横約四〇センチメートル、縦約三〇センチメートルのテナント名を書いた看板がつり下げられていた。

6  本件店舗の忠実屋直営の売場では、原則として、いわゆるスーパーマーケット販売方式(顧客が、スーパー専用の買物かごを持ち、購入する商品を買物かごに入れ、その階のレジで代金を一括して支払う方式)で営業されていたが、被上告補助参加人などテナントの売場では、それぞれ独自のレジを設け、対面販売方式で営業を行っていた。

7  本件店舗の忠実屋直営の売場では、原則として従業員が制服と名札を着用していたのに対し、被上告補助参加人においては、忠実屋の制服や名札を着用せず、また、「八島ペット」と表示されたレシートを発行し、包装紙や代済みテープも忠実屋のものとは異なるものを使用していた。ただし、被上告補助参加人は、右レシートの発行のほかには、自己の名称を積極的に表示することはしていなかった。

8  本件店舗の屋上では、被告上告補助参加人がペットショップを営業していたほかは、テナントである秋坂商会が経営するプレイランドと称する子供用遊戯施設が設けられていただけであり、忠実屋直営の売場はなかった。そして、店内の四階から屋上に上がる階段の登り口に設置されたプラスチック製屋上案内板には、比較的大きな赤文字で「屋上遊園地、ペットショップ」と表示され、また、右階段の踊り場正面の壁には、樹木を型取った模様の中に比較的大きな青文字で同様の表示がされており、いずれもテナントの名の表示はなかった。

9  被上告補助参加人は、忠実屋から貸借していた契約場所をはみ出し、四階から屋上に上がる階段の踊り場等に値札を付けた商品を置き、また、契約場所以外の壁に「大売出し」と大書した紙を何枚も張りつけるなどしていたが、忠実屋は、これを黙認していた。

二  原審は、右事実関係の下において、次のとおり判示して、本件につき商法二三条の類推適用を否定し、上告人らの本件請求を棄却した。

すなわち、右一の4ないし7の事実によれば、営業主体の識別のために基本的にして重要な事項であるテナントの店名表示、本件店舗の館内表示、忠実屋とテナント店の従業員の外観上の識別、代金支払方法の独自性、領収書の発行名義の明記、包装紙等の区別などについて、忠実屋は、被上告補助参加人の店の前に、他のテナント店と同様にテナント名を記載したつり看板を設け、館内表示板には、直営売場とテナント名とを区別して表示し、また、被上告補助参加人においても、忠実屋の制服や名札を着用することなく、独自に代金の支払を受けて自己の店名を表示した領収書を発行し、包装紙や代済みテープも忠実屋のものとは異なるものを使用していたことを総合勘案すれば、忠実屋の直営売場とテナント店との営業主体の識別のための措置は一応講じられていたということができるから、被上告補助参加人の営業について、忠実屋が自己の商号使用を許諾したのと同視できる程度の外観を作出したものと認めるに足りない。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

1  原審の確定した事実関係によれば、忠実屋は、チェーンストア形式による総合小売業などを営む株式会社で、地上四階建て(屋上あり)の本件店舗でスーパーマーケットを営んでいたものであり、被上告補助参加人は、そのテナントとして、本件店舗屋上の一部においてペットショップを営んでいたものであるところ、本件店舗の外部には、忠実屋の商標を表示した大きな看板が掲げられていたが、テナント名は表示されていなかったというのであり、本件店舗の内部においても、本件店舗の四階から屋上に上がる階段の登り口に設置された屋上案内板や右階段の踊り場の壁には「ペットショップ」とだけ表示されていて、その営業主体が忠実屋であるか被上告補助参加人であるかは明らかにされておらず、そのほか、被上告補助参加人は、忠実屋の黙認の下に、契約場所を大きくはみ出し、四階から屋上に上がる階段の踊り場等に値札を付けた商品を置き、契約場所以外の壁に「大売出し」と大書した紙を何枚も張りつけるなどして、営業をしていたというのである。これら事実は、買物客に対し、被上告補助参加人の営業があたかも忠実屋の営業の一部門であるかのような外観を与える事実ということができる。

2  他方、本件においては、前記一の4ないし7の事実も存在するというのであるから、これら事実が、買物客が営業主体を外観上認識するにつき、どのような影響を与えるかについて検討する。

(一)  被上告補助参加人の売場では、忠実屋直営の売場と異なり、独自のレジが設けられて対面販売方式が採られていたが、被上告補助参加人の取扱商品であるペットは、その性質上、スーパーマーケット販売方式になじまないものであって、仮に忠実屋がそれを販売するにしても、対面販売の方式が採られてもしかるべきものといえるから、このことから買物客が営業主体を外観上区別することができるとはいえない。

(二)  被上告補助参加人の従業員は忠実屋の制服等を着用していなかったが、営業主体が同一の売場であっても、その売場で取り扱う商品の種類や性質によっては、他の売場の従業員と同一の制服等を着用していないことは、世上ままあり得ることであって、このことも買物客にとって営業主体を外観上区別するに足りるものとはいえない。

(三)  被上告補助参加人の発行するレシートには被上告補助参加人の名称が記載されていたが、レシート上の名称は、目立ちにくい上、買物客も大きな注意を払わないのが一般であって、営業主体を区別する外観としての意味はほとんどない。

(四)  被上告補助参加人は忠実屋と異なる包装紙や代済みテープを使用していたが、これらは買物客にとっては忠実屋の包装紙等と比較して初めて判明する事柄であって、両者の営業を外観上区別するに足りるものとはいい難い。

(五)  被上告補助参加人の売場の天井からはテナント名を書いた看板がつり下げられており、また、本件店舗内数箇所に設けられた館内表示板には、テナント名も記載され、忠実屋の販売する商品は黒文字で、テナント名は青文字で表示されていたが、天井からの看板は、横約四〇センチメートル、縦約三〇センチメートルという大きさからして、比較的目立ちにくいものといえるし、館内表示板は、テナント名のみを色で区別して記載しているにすぎないから、買物客に対し営業主体の区別を外観上明らかにしているものとまではいい得ない。

してみれば、これら事実は、これを個々的にみても、また総合してみても、買物客にとって、被上告補助参加人の売場の営業主体が忠実屋でないことを外観上認識するに足りる事実ということはできない。

3  以上によれば、本件においては、一般の買物客が被上告補助参加人の経営するペットショップの営業主体は忠実屋であると誤認するのもやむを得ないような外観が存在したというべきである。そして、忠実屋は、前記一の2のように本件店舗の外部に忠実屋の商標を表示し、被上告補助参加人との間において、同3の内容の出店及び店舗使用に関する契約を締結することなどにより、右外観を作出し、又はその作出に関与していたのであるから、忠実屋は、商法二三条の類推適用により、買物客と被上告補助参加人との取引に関して名板貸人と同様の責任を負わなければならない。

四  以上と異なる原審の判断には商法二三条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があるから、原判決は破棄を免れず、その余の争点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官高橋久子 裁判官小野幹雄 裁判官三好達 裁判官遠藤光男)

上告代理人濱田源治郎、同柴田憲一、同小林覚の上告理由

本件につき商法二三条の類推適用を否定した原判決の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背がある。

原判決は、商法二三条の類推適用の有無に対する判断として、①「控訴人において買い物客がそのような誤認をするのも止むを得ない外観を作出し、あるいは、補助参加人がそのような外観を作出したのを放置、容認していたものと認められる」ことと、それに加えて②「控訴人に商法二三条にいう商号使用の許諾と同視できる程度の帰責事由が存すると認められる」ことを要するとした。この商法二三条を類推適用する場合の要件自体については、上告人らも争うものではない。

しかしながら、原判決が認定した本件の事実関係を前提としながら右の二要件を欠くとの原判決の判断は、経験則に反する違法なものである。原判決は、その結果、商法二三条の適用(類推適用)を誤ったものであり、右法令違背が判決に影響を及ぼすこと明らかである。

第一 営業主体を誤認させる外観が作出されていたことについて

一 原判決は、①の外観作出の点について、「買い物客が被告店内の個々のテナント店で買い物をする場合について、その店名の表示の有無、領収書の発行名義、包装紙や代済みテープ及び店員の服装の控訴人の売場との相違の有無など、テナント店の表示やその営業行為を全体的に観察して客観的に判断すべきである」とする(原判決一四丁裏二〜七行目)。

更に、原判決は、「営業主体の識別のために基本的にして重要な事項」として、「前述のテナント店の店名表示、被告店の館内表示、控訴人とテナント店の従業員の外観上の識別、代金支払い方法の独自性、領収書の発行名義の明記、包装紙等の区別」を挙げている(原判決一六丁表五〜九行目)。

しかし、これは、原判決の判断が営業主体の識別に重要な事項を取引の相手方が控訴人(被上告人。以下控訴人という。)の「被告店」(原判決を引用する場合を除き、以下控訴人店という。)店舗内のテナントの売場に立って以降に認識できる事実を重視するあまり、取引の相手方が控訴人店店舗内のテナントの売場に至るまでに認識する事実の重要性を忘れたものであることを示している。すなわち、原判決は、「控訴人がその商号を掲げた四階建ての被告店において、テナント店をして自己の統一的営業方針に従わせて、総合小売業として統一的な営業を行っているということは、右判断の一事情であるということはできる」(原判決一四丁裏八〜一一行目)としか評価せず、これらの事実を「営業主体の識別のため基本的にして重要な事項」(原判決一六丁表五行目)として顧慮しないという誤りを犯している。

このような原判決の判断は、法律専門家でない一般買い物客が控訴人の「忠実屋」なる商号を信頼し、忠実屋から商品を購入する意識で忠実屋の店舗に赴き、店舗内に立ち入り買い物をすることを無視したものであり、経験則に反するものといわざるを得ない。何故ならば、控訴人店は、原判決も認定するとおり「四階建ての大規模店舗」であり、その屋上には、「控訴人の商号」及び標章(いわゆるサービスマーク)を表示した巨大な看板が立てられている(甲第一六号証の写真)ほか、店舗外部には控訴人の商号又は商標が表示されている(検証調書添付写真)。また、建物の名称は、「忠実屋小田急相模原店」である。いずれも、控訴人店全館が控訴人の店舗であり、その内部で控訴人が忠実屋なる商号で営業主体として取引を行っていることを示している。他方、これらには忠実屋以外のテナントの存在は全く示されていない。すなわち、控訴人は、右の表示方法により買い物客を控訴人店の店舗に誘引し、商品を販売することを業としているのである。従って、まずこの点につき控訴人の外観作出の有無が考えられるべきであり、また以下のとおり控訴人の外観作出が認められるべきである。

この控訴人店の店舗外部の表示の効果は、控訴人店の近隣住民及び控訴人店を訪れる者に対しては、あまねくかつ強烈に及ぶことは明らかである。そして、必ずしも法的関係に明るいとは限らない一般買い物客、特に上告人徹のような未成年者に対しては、この表示の効果はより一層強力である。法的関係に明るくない者は、控訴人店店舗の外部表示により控訴人店全館が忠実屋の店舗であることと営業主体が忠実屋であることの認識を一旦植え付けられれば、他の特別の表示により営業主体についての別の情報を明確に与えられない限り、控訴人店店舗内で営業している者の中に控訴人と異なる営業主体の者が存在することにまで思い至らないからである。

従って、控訴人が行う店舗外部の表示に誘引されて控訴人店に来店する買い物客は、控訴人が営業主体であるとの強烈な印象を植え付けられて入店するのであって、控訴人店に立ち入りテナントの売場に立つまでの間、営業主体に関して何の認識も持たないわけではない。一般の買い物客は、忠実屋の店舗内の商品を買うのであるから自己の取引相手は忠実屋であると信じ又は誤認したままテナントの売場に立つのであり、テナントの売場で取引を開始するまでの間に控訴人の営業主体性についての認識を打ち消すような営業主体についての明確な表示があるといった特別の事情がない限り、控訴人との取引に入ると信じ、営業主体を誤認したまま取引行為に入るのである。本件に則して言えば、補助参加人の売場で買い物をする買い物客は、補助参加人の売場を控訴人のペット売場(控訴人の様々な商品の売場の一つ)であるとの認識でペットを購入するのである。

以上のように、「控訴人がその商号を掲げた四階建ての被告店において、テナント店をして自己の統一的営業方針に従わせて、総合小売業として統一的な営業を行っているということ」は、「営業主体の識別に基本的にして重要な事項」であり、このような事実が存する以上、特別の事情がない限り、控訴人は、買い物客が営業主体につき誤認をするのも止むを得ない外観を作出し、あるいは、補助参加人がそのような外観を作出したのを放置、容認していたと評価されるべきである。

この点につき、外観作出の有無を判断する際の一事情にすぎないとした原判決の判断は、経験則に反するものであり、一般買い物客についての認識を誤るものである。

二 これに対して、「控訴人がその商号を掲げた四階建ての被告店において、テナント店をして自己の統一的営業方針に従わせて、総合小売業として統一的な営業を行っているということ」という事実のほかにも「営業主体の識別のために基本的にして重要な事項」が存するのであれば、右に述べたとおり特別の事情として考慮しなければならない。

そこで、以下には原判決が「営業主体の識別のために基本的にして重要な事項」として掲げているものが、本当に基本的にして重要か否かを検討する。

1 原判決が基本的にして重要な事項として掲げるものは、「テナント店の店名表示、被告店の館内表示、控訴人とテナント店の従業員の外観上の識別、代金支払い方法の独自性、領収書の発行名義の明記、包装紙等の区別など」である。

この中、「テナント店の店名表示、被告店の館内表示」が「控訴人がその商号を掲げた四階建ての被告店において、テナント店をして自己の統一的営業方針に従わせて、総合小売業として統一的な営業を行っているということ」とともに基本的にして重要な事項に該当することについては、上告人も異論がない。

しかし、原判決が掲げるその他の事項については、後述するように基本的にして重要な事項とはいえない。そして、原判決がそのような「基本的にして重要な事項」といえないものとともに、「控訴人は、補助参加人の店の前には、他のテナント店と同様にテナント名を記載した吊り看板を設け、館内表示板には、直営売場とテナント店とを区別し、補助参加人についてはテナント店であることを示す青文字で「ペットショップ八島」と表示し」たことを総合勘案すれば、控訴人の直営売場とテナント店の営業主体の識別のための措置は一応講じられていた」(原判決一六丁表九〜裏八行目)と結論付けている点は、誤りである。

2 原判決が認定しているテナントの表示に関する事実は、①テナントの売場の吊り看板、②館内表示板、③店内四階から屋上に上がる階段の登り口の屋上案内板及び同階段の踊り場にあるペットショップと屋上遊園地と表示された看板の三種である。

①の吊り看板は、これを直接撮影した写真が証拠として提出されているわけではなく、平成二年九月二八日(補助参加人の立退き後である。)に実施された検証において、「電源を切断した跡」が示され、控訴人の店長が「三階のテナント(しょうえんぬませ)の看板と同型のものがつけらてれいた。」と指示説明したことに基づき認定されたものと思われる(因みに上告人らは、本件インコの購入時には右吊り看板は存しなかったと考えている。)。そして、原判決は、第一審判決と同様この各テナントの吊り看板の大きさを「横約四〇センチメートル、縦約三〇センチメートル」(原判決一五丁表八及び九行目、第一審判決三三丁裏一及び二行目)と認定し、同時に一階ないし二階で営業するテナント「四店は右同型の吊り看板の他に、それぞれの賃借り部分の外側に沿って天井から自己の名称(商号)を表示した独自の看板を吊り下げるなど」していたことを認定している(原判決一五丁表八および九行目、第一審判決三五丁表五〜八行目)。テナント中に①の吊り看板のほかにわざわざ独自の看板を吊り下げていた者があるということは、補助参加人と異なり自己の商号を前面に出したいテナントにとって、控訴人が設置した吊り看板が目立ちにくく不十分であることを物語っている。

また、前記の検証時に元補助参加人の売場があった部分で営業をしている「プレイランド秋坂商会」の入口左横のガラス仕切り板部分には、直立した成人の頭の高さとほぼ同じ位の高さに大きな赤文字と黒文字で「プレイラント秋坂商会」と記載されたプラスチック板の看板が吊り下げられている(検証調書添付写真①)。

ところが、原判決が認定した他のテナントと同型(三階しょうえんぬませなど)の吊り看板の取り付け位置は、この秋坂商会のプラスチック板製看板と全く異なり、入口扉上部天井付近という見えにくい場所であった(検証調書添付写真③)。ましてや、検証時の秋坂商会は入口及び看板から離れた位置に遊戯器具を並べているにすぎないが、本件事故当時、補助参加人は、入口及びガラスの仕切り板に接着して子犬の檻を設置し、ガラス仕切り板には様々なシールや案内板を貼り、売場の上部には造花その他の装飾を施していた。のみならず、補助参加人の売場の扉には、黄色地に赤字で「大売出し」と大きく書かれた張り紙が貼られていた(甲第二五号証の五及び六の写真)が、この張り紙は、補助参加人のものではなく、控訴人のもので、控訴人が控訴人店全館に貼り又は貼らせていたものである(甲第二五号証の三及び四の写真)。

このような状況では、仮に原判決認定のとおり入口上部に天井から下げられた吊り看板があったとしても、それにより買い物客がその吊り看板に注意を払い営業主体は控訴人でなく補助参加人であると認識することは、殆ど不可能である。だからこそ、本件事件後に補助参加人の売場跡で営業している秋坂商会は、他のテナントと同型の吊り看板を付けずに独自のプラスチック板製看板を付けているのである。

以上の事実からすれば、第一審判決が正当に評価したとおり、①の吊り看板は、「比較的小さいもので、目立ちにくい」としか評価できない。

3 ②の館内表示板は、「ペツトショップ八島」の文字を青文字で記載してあるとはいえ、原判決自身も認めているとおり「買い物客が常に見るものとは限らないから、それだけでは識別のための表示としては十分といえないもの」(原判決一七丁表六〜八行目)で、一応の物でしかない。しかも、この館内表示板は、補助参加人の売場とは別の階の遠く離れた場所に掲げられていたのであり、これまた、補助参加人が営業主体であることを表示するものとしては不十分なものである。

ところが、原判決は、「それを見た買い物客としては一応の識別は可能であり、また、その表示と個々のテナント店での店名の表示等と併せて考慮すれば、被告店内では店全体としてみても補助参加人の営業と控訴人の営業とが異なるものであることを買い物客に表示されているという意味において、控訴人の責任の有無を判断するに際して無視し難い事情であるというべきである。」としている(原判決一七丁表一〇〜裏五行目)。

しかし、補助参加人の売場に関して言えば、店名の表示は、右2吊り看板以外には存しないのである(その他の表示については、原判決及び一審判決とも控訴人の控訴人店店長中村の―他にも表示があった―旨の証言を措信できないとして採用していない。)。そして、右2のとおり吊り看板は、営業主体性の表示について不十分極まりないものであるから、そのようなものと「識別のための表示として十分といえないもの」であると原判決自身も認める館内表示板とを幾ら「併せて考慮」しても、「被告店内では店全体としてみても補助参加人の営業と控訴人の営業とが異なるものであることを買い物客に表示されている」などとは到底言える筈がない。この点についての原判決の判断は、誤りである。

そもそも、館内表示板は、補助参加人の売場と異なる階に掲げられているものであり、しかもその役目は、売場の位置を知らしめることにあって、営業主体の違いを知らしめるものではない。従って、その性質上控訴人店を以前に訪れたことのある買い物客で売場の位置を認識している者は、殊更に館内表示板等を見ることはないから、これにより営業主体を確認することなどない。特に補助参加人の商品であるペットは、その商品の特殊性から、また多くのデパートやスーパーマーケットにおいても屋上に売場を設置していることから、他の雑多な商品と異なり、屋上において売られているとの記憶は残り易い。上告人徹もまさにそのような買い物客であって(平成元年一〇月三日同人の本人調書二丁裏)、本件のインコを購入する際に館内表示板など全く見てない。

それにもかかわらず、「控訴人の責任の有無を判断するに際して無視し難い事情」であるとする館内表示板の表示に対する原判決の評価は、右のような本件館内表示板の営業主体の表示としての不十分さ、館内表示板の役割及び買い物客の行動様式を無視する不当なものである。

4 これらのほか、補助参加人の売場についての表示としては、原判決のいう屋上案内板と階段踊り場の看板が存する。すなわち、「店内の四階から屋上(五階)に上がる階段の登り口に設置されたプラスチック製屋上案内板には、「屋上遊園地、ペットショップ」と比較的大きな赤文字で表示され、また、四階から屋上に上がる階段の踊り場正面の壁には、樹木を型取った黄緑色の模様の中に、比較的大きな青文字で「ペットショップ」及び「屋上遊園地」の表示がなされていた」(原判決一五丁表八及び九行目、第一審判決三四丁表六〜裏二行目)ことは、原判決も認定するところである。

ところが、原判決は、「それらの看板は補助参加人の店とプレイランドが、四階までの他の売場から外れた場所に存するために設けられた案内板に過ぎ」ないとの理由で、「その表示が前示の店名表示や館内表示と相反する表示であるとは到底解することはできない」(原判決一七丁裏一一〜一八丁表四行目)として単にペットショップとのみ表示し、補助参加人の表示をしないことを正当化している。

しかし、この判断は全く説得力のない独断と言うほかない。

まず、右2に述べたとおり①の吊り看板は、補助参加人の営業主体性を表示し得るものとしては、補助参加人の売場に直近するものであるにもかかわらず、その大きさ、取り付け位置、周囲の状況からして、買い物客に対して補助参加人が営業主体であることを表示するものとしては不十分なものである。

次に、右3に述べたとおり②の館内表示板は、「ペットショップ八島」の文字を小さく青文字で記載してあるとはいえ、原判決自身も認めているとおりこれを見ない者もいることが想定できる一応の物でしかなく、しかも、補助参加人の売場とは別の階の遠く離れた場所に掲げられていたのである。これまた、補助参加人が営業主体であることを表示するものとしては不十分なものである。

そうだとすれば、補助参加人の売場に比較的近接して掲げられ、しかも①の吊り看板及び②の館内案内板の文字とは比較にならない程大きな文字で極めて人目に付く位置に掲げられている踊り場の看板(甲第九号証の二、同第二五号証の一及び二、検証調書添付写真⑧、⑨及び⑫)は、補助参加人の営業主体性を表示するものとしては、極めて重要な物である。確かにこの看板には、「補助参加人の売場とプレイランドが四階までの他の売場から外れた場所に存するために設けられた案内板」という性質はあろう。だが、どうしてそのような性質があると①の吊り看板や②の館内表示板と違って営業主体の表示が突如として不要となるのであろうか。①、②の表示が不十分であることとこの看板の表示の効果を考えるならば、当然この看板にも「ペットショップ八島」と表示すべきであり、それさえすれば、補助参加人の売場を訪れる買い物客の多くは、例え前記全館についての控訴人の営業主体性を認識していたとしても、ペット売場については補助参加人が営業主体であることを正確に認識できた筈である。

5 テナントの営業主体の表示に関しては、補助参加人の売場の存した屋上には、これと隣接してプレイランドと称する遊戯場が設置されていたことも考慮する必要がある。

このプレイランドは、本件の事件当時、テナント名を一切表示していなかったことは争いがない。屋上にテナントの営業主体に関する表示は全くなく、前記①の吊り看板もなかったのである(検証調書添付写真その他にある「秋坂商会」の看板は補助参加人の立退き後に掲示されたものにすぎない。)。控訴人がテナントと直営売場とを区別して表示していたと強調する館内表示板についてすら、単に青文字で「プレイランド」としか表示されていない(検証調書添付写真⑬)。

従って、買い物客がプレイランドをテナントであると認識することは、全く考えられない(だからこそ、控訴人の店長中村もその証言中でプレイランドで事故が起きた場合における控訴人の責任を否定していない。平成元年一二月一九日付証人調書一三丁)。

ところが、控訴人は、そのようなプレイランドと補助参加人の売場とを隣接した。プレイランドも補助参加人の売場も主として子供を対象としていることや娯楽性を持たせている点に共通点がある。しかも補助参加人の営業に係る釣り堀は、プレイランドの中に大きくはみ出して設置されていた(検証調書添付写真⑦)。このような両者の設置の状況に、前記の補助参加人の営業主体性の表示の不備を考慮すれば、屋上を訪れた買い物客が、プレイランドと補助参加人の売場とを厳然と区別し、プレイランドは控訴人の直営である(控訴審において控訴人からプレイランドもテナントとの証拠が提出されているが表示が全くなかった以上、買い物客の認識では控訴人の直営である。)が、ペット売場は補助参加人が営業するものであると認識することは、およそ有り得ない。

また、補助参加人は、通常のテナントとは異なり、控訴人が控訴人店全館に掲示し又は掲示させている「大売出し」の紙が掲示された四階から屋上にかけての階段に自己の商品を展示している。

これらの事情もペットショップが補助参加人ではなく、控訴人の売場であるとの買い物客の信頼又は認識を強めるものである。

6 以上の①吊り看板、②館内表示板、③屋上案内板及び踊り場の看板における補助参加人が営業主体であることの表示の不十分さと右5の事実からすれば、控訴人は、買い物客がテナントを控訴人の直営売場であると信じ又は誤認し、控訴人から商品を購入したと信じ又は誤認するのも止むを得ない外観を作出したものであり、更に、補助参加人がそのような外観を作出したのを放置、容認していたものと認められる。すなわち、「テナント店の店名表示、被告店の館内表示」は、本来、営業主体の識別に基本的にして重要な事項であるが、本件では十分な表示が存しないのであるから、前記一による控訴人の外観作出を否定する特別の事情があるとはいえない。

三 これに対して、原判決の掲げる「営業主体の識別に基本的にして重要な事項」のうち、「テナント店の店名表示、被告店の館内表示」以外の領収書の名義、包装紙や代済みテープなどというものは、買い物終了後に殊更に注意を払って確認する者に対してのみ営業主体の相違についての情報を与えるものに過ぎない。

確かに本件事故が起きて問題になった後である一九八五年(昭和六〇)年五月四日付領収書(乙第四号証)には八島ペットの文字が記載されている。しかし、そもそも領収書は買い物客が営業主体を確認するためのものではなく、代金額や購入日付などを特別確認する必要がない限り、買い物客が子細に観察するものではなく、殊にペット購入の領収書については、これを保存する者も稀である(現に、上告人らも本件事故後に領収書を探したが、すでに紛失していた。)。

また、補助参加人の使用していた代済みテープ及び包装紙も一般買い物客において営業主体を確認するために子細に観察するものではない。本件代済みテープには、営業主体を示すものは何も記載されていないのであって、そこには、補助参加人がペット売場で販売している商品である小鳥の絵が描かれているにすぎない(乙第六号証写真①)。本件包装紙にも営業主体を示すものは何も記載されていない(乙第六号証写真③)。このような代済みテープや包装紙を受領した者は、商品に合わせた代済みテープや包装紙を控訴人が使用していると認識することはあっても、控訴人でなく補助参加人が営業主体であるとまで認識することは困難である。何故ならば、控訴人が自己の標章の記載された代済みテープと包装紙を使用しているからといって、他の代済みテープ及び包装紙を一切使わないことまでも保証するものではなく、第三者からすれば、本件代済みテープや包装紙は控訴人のものでないとの確信を持てるわけではないからである。

このほか、原判決は、商法二三条類推適用の有無を論ずる際の外観の一つとして、テナントの「店員の制服の控訴人の売場との相違の有無」を掲げ、営業主体の識別のために基本的にして重要な事項の一つとして「控訴人とテナント店の従業員の外観上の識別、代金支払い方法の独自性」を説いている。

しかし、これは、補助参加人の取扱商品がペットであることと補助参加人の売場が屋外遊戯場以外に存しない屋上にあることを無視した議論である。確かに、食料品や日曜雑貨を主に取り扱うスーパーマーケットの従業員が制服を着用していることは多い。だからといって、扱い商品が全く異なり、階層も異なる本件ペツト売場において、制服を着用しないことについて、一般買い物客(特に子供も多い。)が違和感を持ち、営業主体の違いに思い至るべきであるとか、思い至るのが通常であるとかいう議論は全く理由がない。ましてや従業員の小さな名札の有無を営業主体の区別について重視することは異常である。そもそも動物の食餌の世話、糞及び体毛の掃除をしなければならないペット売場の従業員に食料品や日用品を扱う売場と同一の制服を着用させることなど、顧客の制服に対する印象や信頼を考えれば通常行わない。このことは、営業主体の異同と関係ないことである。

また、代金支払いの独自性、すなわち買い物客がそれぞれ備えつけの買い物篭を持ちレジで代金を支払うといういわゆるスーパーマーケットの販売形態とペット売場の対面販売方式とが異なるということも補助参加人の取扱商品がペットであることから当然に導かれることである。動き回る小動物を買い物客が勝手に手にとり買い物篭に入れてまとめて代金を支払うことなど考えられないからである。

以上のとおりであるから、「店員の制服の相違」や「代金支払いの独自性」は、取扱商品の特性から当然にもたらされるものであり、しかも、補助参加人の売場位置を考慮すれば、その違いを営業主体の識別において、重視することは何ら理由がない。なお、取扱商品の特性や売場位置がいわゆるスーパーマーケット方式の売場と異なること自体を営業主体の識別において重視できないことも全館について控訴人の店舗及び営業であることの表示がある本件では当然である。

四 よって、控訴人は、買い物客が控訴人を営業の主体と信じ又は誤認するのもやむを得ない外観を作出し、あるいは、補助参加人がそのような外観を作出したのを放置、容認していたものである。

第二 控訴人に商号使用を許諾したのと同様の帰責性があることについて

一 前記のとおり控訴人は、その商号を掲げた四階建ての控訴人店において、テナントをして自己の統一的営業方針に従わせて、総合小売業として統一的な営業を行っていた。そのため、控訴人店に来店する買い物客は、控訴人が営業主体であるとの強烈な印象を植え付けられ、「忠実屋」なる商号を信頼し、忠実屋から物を購入する意識で忠実屋の店舗に赴き、店舗内に立ち入ることになる。そして、一般の買い物客は、特別の事情がない限り、自己の取引相手は忠実屋であると信じ又は誤認したままテナントの売場に立つ。

ところが、本件においては、前記第一の三2及び3のとおり、補助参加人の営業主体性を表示する店頭天井の吊り看板及び館内表示板は、いずれもそのような営業主体は控訴人であるとの強い認識を抱かされている一般買い物客の認識を改めさせるには不十分なものでしかない。

のみならず、本件については、単なる不十分というに止まらず、ペット売場の営業主体は、控訴人であるとの認識をより一層強める表示がなされていたのである。

すなわち、「店内の四階から屋上(五階)に上がる階段の登り口に設置されたプラスチック製屋上案内板には、「屋上遊園地、ペットショップ」と比較的大きな赤文字で表示され、また、四階から屋上に上がる階段の踊り場正面の壁には、樹木を型取った黄緑色の模様の中に、比較的大きな青文字で「ペットショップ」及び「屋上遊園地」の表示がなされていた」(原判決一五丁表八及び九行目、第一審判決三四丁表六〜裏二行目)。これは、全館について控訴人の営業主体性が表示されている以上、控訴人の「ペットショップ」や「屋上遊園地」の表示としか解しようがない。原判決のように屋上にそのような売場や施設があるとの案内板であるからといって、テナント名を記載できないわけではないのであるから、館内表示板と同様「ペットショップ八島」と記載すべきであったのである。それにもかかわらず、補助参加人の売場に比較的近接した場所に他のテナントについての表示以上に目立つ位置及び文字で、殊更に「ペットショップ」とのみ表示することは、営業主体について、控訴人であるとの認識を植え付けられている一般買い物客をして、営業主体は控訴人であるとの認識を一層強めることになることは明らかである。

また、控訴人は、補助参加人と屋上遊園地を隣接させないこともできるし、屋上遊園地に営業主体性を表示させることもできるにもかかわらず、補助参加人の売場に隣接して屋上遊園地を設置し、しかもその屋上遊園地については、事故が起きたときの責任を負うこともやむを得ないとの前提で、営業主体性について一切表示し又は表示させていないのである。その結果、屋上を訪れた者は、屋上遊園地を控訴人の直営と認識し、これに隣接し、釣り堀という娯楽施設を屋上遊園地内にはみ出して設置し、屋上遊園地と同様に家族連れや子供をその重要な顧客とする補助参加人についても、屋上遊園地と同様に控訴人の直営売場であるとの認識を強めるのである。

このように、全館について控訴人の営業主体性を表示しながら、補助参加人の売場に近接した場所に、補助参加人の営業について控訴人の営業であるとの一般買い物客の認識を一層強めるような表示と直営と誤認させる施設の設置を敢えて行い、補助参加人に営業を継続させる控訴人の行為は、自己の商号を信頼する者に対し、自己が営業主体であると誤認させたまま第三者との取引に入らせる点で、自己の商号の使用を許諾する行為と同視することができる。

よって、控訴人には、自己の商号使用を許諾したのと同視し得る帰責性が存する。

二 原判決も認定するとおり控訴人は、自己の商号を掲げた四階建て建物である「店舗内の一部にテナントに出店を許すことにより、商品の多様化を図り、かつ、テナントに対して、控訴人店の統一的営業方針に従って、その反映と信用保持に最善の努力を尽くすことを要求するとともに、営業に関しては、営業時間、休日、商品等の搬入搬出、売上金の管理、取扱品目の変更禁止等の制約を課して、総合小売業としての店舗全体の営業を統一的に行っていた」のである。いわば補助参加人は、控訴人の営業の中に完全に組み込まれていたのである。そのことは、控訴人と補助参加人との間の昭和五三年三月一日付出店及び店舗使用に関する契約書(乙第一号証)の次の条項からも明らかである。

すなわち、同契約第一二条第一項によれば、控訴人は補助参加人がペットショップの営業から得た売上金を毎日定時に補助参加人の立ち会い及びレジスター記録照合の上、別に定める規則に預り管理するとされ、同第二項によれば、控訴人の管理する預り売上金は毎月前半分は変動賃料を控除してその月の二五日に、後半分は翌月一〇日補助参加人の銀行口座へ振り込みによって返還するとされている。控訴人による変動賃料の正確な積算を目的とするのであれば、毎日の売上金と記録との照合や営業報告及び決算報告(第二七条)を履行させることで足りる。また、幾ら賃貸人にとって賃料の確保が重要であるといっても、通常の賃貸人は、賃借人の売上金全てを管理したりはしない。

ところが、補助参加人は、売上金すら自分で管理することができず、後日の控訴人からの振り込みを待たねばならないのであり、実質的には、控訴人のために委託販売をし、その手数料の支払いを後日受けるのと大差がない。

また、第二九条第一〇号に、控訴人(甲)が解約権を行使し得る事由の一つとして、「契約期間中といえども、乙(補助参加人)が経営努力を怠り他の出店者との営業成績を比較した場合乙(補助参加人)の営業成績が著しく低下していったとき甲(控訴人)がその成績向上につき示唆するもその成果が向上しないとき」という事由が掲げられていることもテナント(Tenat)契約の条項として特異である。このほかにも、右出店及び店舗使用に関する契約には、控訴人に単なる賃貸人以上の権限を規定する条項が多数存している。

これらの条項からみれば、控訴人店内に出店している補助参加人ほかの者は、テナント店とはいうものの、純粋な賃貸人=テナントではなく、控訴人から営業行為に対する厳しい管理を受けている者にほかならず、その実態は、忠実屋の品揃えのためにその商品販売の一翼を担うものであって、控訴人のために委託販売をしている受託者と大差ない。このような補助参加人と控訴人との関係は、まさしく補助参加人が控訴人の営業の中に完全に組み込まれていると言うべきである。なお、原判決も「控訴人がテナント店に比して優越的地位にある」ことを認定している。

このような補助参加人ほかのテナントを自己の営業に完全に組み込んで自己の店舗の品揃えを図り、総合小売業としての店舗全体の営業を統一的に行っていた控訴人は、そのことにより高い利益を挙げているのであるから、自己の帰責行為によりテナントについての営業主体を控訴人であると信ずるに至った取引の相手方に対する責任を負うことは当然のことであり、何ら酷とは言えない。

以上を前提とすれば、控訴人は、前記第一の二のように、控訴人店全館に対する自己の営業主体性を表示している以上、補助参加人の売場がテナントであることを表示し、一般買い物客をして営業主体についての誤認を生じさせないようにする責任があり、前記第一の二のように、補助参加人についての営業主体の区別に必要な表示を十分行わず、また補助参加人をして表示をさせていないのであるから、控訴人には、補助参加人に対して控訴人の商号使用を許諾していたのと同視すべき帰責性があることは、明らかである。

控訴人の補助参加人に対する関係からすれば、一般買い物客が営業主体について誤認をし得ないように補助参加人に対し、店名の表示を求めることは容易であり、かつ控訴人がそのような要求をすれば補助参加人が応じざるを得ないことも明らかだからである。

控訴人店全館について控訴人の営業主体性が表示されている本件において、出店契約で控訴人の商号の利用を制限してあることや補助参加人が控訴人の商号を直接使用していないことのみをもって控訴人の責任を否定することは誤りである。

よって、被上告人(控訴人)は、上告人らに対し、商法二三条の類推適用により名板貸人と同様の責任を負うものであり、この点についての判断を誤った原判決は取り消されるべきである。

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